皇帝、帝王と称される馬

私がシンボリルドルフのファンになった瞬間は、1986年12月7日の、
彼の引退式での事です。
記念すべきその日に、大勢のファンが見守る中、彼は右に左に
とフラフラ蛇行しながらのラストランを披露したのです。

何気にそれをウインズのテレビで見ていた私の耳に、
「自由だ!自由だ!!ヒャッホー!!!」 という彼の声が
聞こえたような気がしました。

それまでは、あまりに強すぎて‘勝つ為だけのサイボーグ’
のような見方しかしていなかった私に衝撃が走りました。
それが始まりです。

知れば知るほど、ルドルフは奥の深い馬でした。
“狂気と紙一重”と言われた血をおさえこみ、人前では
冷静沈着を装い、レースでは勝って当たり前を、何気なく勝ってみせる。
その裏でどんな思いがあったのか、想像もできません。
天皇賞でギャロップダイナに負けた時、馬房で大粒の涙を流したルドルフ。

温厚な故野平祐二調教師さんですら、「ルドルフのような我まま、
やんちゃな馬は嫌いです」と言うほどの厩舎での態度、
ルドルフの心の奥底のあるやりきれなさや、孤独感の
あらわれではないかと思ってしまいます。
 
「ルドルフの仔は気性が悪すぎる」・・・・そういう言葉をよく聞きました。
ただ唯一、トウカイテイオーだけが受け継いだ才能を気性難もなく
出す事ができた、それは、母トウカイナチュラルの性格の影響が
大きいと、私は思います。

強いエスプレッソコーヒーのような、ルドルフの気性を、ナチュラルの
穏やかで柔らかいクリームのような性格が包み込んで、
トウカイテイオーという素晴らしいカフェ・オ・レができた・・・・・・
私の勝手な思い込みですが。

この2頭に対して、関係者の方が同じような事を言ってました。
ルドルフが引退後、ある記者が岡部元騎手にこう尋ねました。
「サンタアニタで、もしルドルフが怪我しなかったら勝てたと思いますか」
その返答は「勝てました。 普通の状態でさえあれば勝って
いたと思います」 でした。
 
現役時代、松元前調教師さんは、
「テイオーは1ooパーセントでなくて良いんだ。 
普通であれば大丈夫なんだ」 と言っていたことがありました。

これからも競馬が続く限り、怪物とか最強馬と呼ばれる馬が
その時代時代で出てくるでしょう。
でも、皇帝、帝王と称される馬は、ルドルフ、テイオー父仔
以外には出てこないと私は思います。
 
                            (メンバー Eさん)